「やりたいことをしなさい」は間違い?情熱と仕事の距離感とは
キャリア形成に関しては、「やりたい仕事をしなさい」といったアドバイスがはやりだ。だが、筆者はこの数年間、仕事に満足するための戦略について調べてきたが、「やりたい仕事をしなさい」と勧めることには問題が多いことが早い段階で明らかになった。
第1に、このアドバイスは科学的根拠に欠ける。職場におけるモチベーションや満足感は広く研究対象となっており、幸福な従業員が優秀な従業員であることはある。
しかし、望んでいた仕事に就くことが重要だとする調査結果はほとんどないのだ。大半の研究は、仕事における裁量権や適性を感じることなど、様々な仕事に存在する条件が重要であることを示しており、あなたがピッタリだと思う仕事に就けなければ幸せになれないという考えとは矛盾している。
第2に、仕事が大好きだという人を調べてみると、始める前からその仕事に就きたかったという人はまれだという研究もあり、「やりたい仕事をしなさい」というアドバイスにはさらに疑問が膨らむ。
人生でやりたいことを早い段階で見いだす人も一部にはいるが、大半の人は、色々な経験や職歴を積みながら、時間をかけて徐々に大好きな仕事を見出すのである。
ただし、「やりたい仕事をしなさい」というアドバイスが間違いだということではあっても、仕事を大好きになることを諦めろという意味ではない。そうするために必要な戦略が複雑なものだということを示しているのだ。
以下の3項目は、仕事を大好きになる方法として筆者の研究の中で良く出てくるものだ。
仕事は大好きになれるもの
仕事に対して求めるものは人それぞれだが、キャリア面で大成功している人を調べると、仕事に関して、裁量権や敬意、適性、創造性、影響力を感じるといったものの内の幾つかを得ていることが多い。つまり、仕事を大好きになるためには、完璧な仕事を探し求めるよりも、今の仕事でこれらの条件をより多く得る努力をすべきだということだ。
しかし、これらの条件の多くを備えた仕事は希少かつ貴重なので、それを得るためにはあなた自身も希少かつ貴重な能力を備える必要がある。そのためには多くの時間と努力を要するが、今の仕事に不満があるのならば、能力を磨く方法をまずは考えるべきだ。
仕事を大好きになるのは簡単ではない
仕事を大好きになることにつながる希少かつ貴重な能力を磨いた人でも、仕事に不満足な人は多い。
例えば、あなたが自分の価値を高めると、上司が、より多くの賃金とより多くの責任という従来のやり方で、あなたを出世させようとするかもしれない。しかし、給与や責任よりも、自分の価値を活用してスケジュールやプロジェクトに対する裁量権を獲得することにあなたは情熱を感じるかもしれない。
言い換えれば、能力を高めるだけでは駄目だということだ。磨いた能力を賢明に使って出世に結びつけるなど、自分のキャリア形成をうまくコントロールしなければならない。これはかなり大変だが、より大きな裁量権を得て仕事が好きになれることもあるなど見返りも大きい。
大好きな仕事探しは危険である
「やりたい仕事をしなさい」というアドバイスには害はないという人もいるが、同意できない。
このアドバイスのために、好きな仕事を探して何度も転職を繰り返す同僚を数多く見てきた。誰にでももともとやりたいことがあり、それにピッタリの仕事が見つかれば即幸せになれるという願望は非現実的だ。
仕事とは大変で、最終的にキャリア上の成功に結び付く能力を磨くには何年もの月日が必要だ。だが、理想の仕事を探しは、失望の繰り返しに終わる。
大好きな仕事を探し求めるのではなく、仕事を大好きになれるための努力をすべきだ。そのためには、読んで楽しいキャリア指南書が唱えるよりも長くて複雑な道のりを経なければならないが、その方が価値ある場所へたどり着ける確率はずっと高い。