我慢できない仕事がみるみる好きになる法
どうしても今の仕事が自分にそぐわないと考えたとき、すぐ浮かぶのは転職という言葉であろうが、その選択肢はリスクも大きい。今の会社にいながら状況を180度変える方法はちゃんと存在するのだ。
転職せずに嫌な仕事から逃げるには
誰しも今の仕事はどうしても自分に合わないと思うことがあるはずだ。その原因はお門違いの分野にいるためかもしれないし、仕事そのものに意義を見出せないためかもしれない。また、同僚がどうも信頼できないためかもしれないし、きわめて無能だと感じる上司の下にいるためかもしれない。
いずれにせよこのような場合には、ほとんどの人がもっと自分に合う仕事を探すべきだとアドバイスするだろう。
だが、景気が悪い、家族を養わねばならない、自分の専門分野では機会が少ないなど、さまざまな理由で会社を辞められないときがある。自分に合わない仕事から転職という方法で脱出できないとしたら、我々はどうすればよいのだろう。
ミシガン大学ロス経営大学院の経営学・組織論教授で『Creating Sustainable Performance』の共著者、グレッチェン・スプライツァーによれば、人々が仕事に大きな不満を持つのは、自分にとって意味のない仕事や学習の機会がほとんどないような仕事、あるいは毎日くたくたになるようなハードな仕事についているときである。
不満の理由が何であれ、それをただ我慢する必要はないし、会社を辞めて転職先を探す必要もない。それどころか、転職先が見つかった場合でも、今の会社にとどまるのが最善の策かもしれない。
「そもそも職探しや転職というものは決してささいな問題ではない。それは吉と出ることもあるが、往々にしてキャリアの向上や収入の面で損になってしまうことがある」と、イェール大学経営大学院の組織行動論准教授で、 『Turn the Job You Have in to the Job You Want』の共著者、エイミー・レズネスキーは指摘している。
幸いなことに、自分の仕事を変える余地というものは、たいていの場合、自分自身が思っているより大きいものだ。「動ける範囲や変えられる範囲は間違いなくあるのだが、人々は概してそれを認識していないものだ」と、レズネスキーは言う。不完全な状況から最大限のプロフィットを引き出す方法を次に紹介しよう。
合わないと断定せず自分自身を見つめる
仕事に満足しているか否かは往々にして自分の気質に関係があるものだと、ペンシルベニア大学ウォートン経営大学院の経営学教授、シガル・バーセイドは言う。生来、不満を持ちやすい気質の人もいれば、人生をもっと前向きにとらえるタイプの人もいるというわけである。
この仕事は自分に合わないと断定してしまう前に、まずは自分自身を見つめてみることだ。自分は単に不満を持ちやすいタイプなのではないかと自問してみるのは意味のあることだと、バーセイドは言う。むろん、それがわかったからといって、今の仕事をいきなり好きになるわけではないかもしれないが、少なくとも新しい仕事を探す前によく考えてみようという気にはなるはずだ。
目の前の仕事をやるための意義を見つけよう
スプライツァーの調査は、仕事により大きな意義を見出すことで職務満足度が劇的に向上することを明らかにしている。バーセイドも同じ結論に至っている。まずは自分の職責を別の角度からとらえてみようと彼女はアドバイスする。
たとえば、単調な作業が必要なポジションにいる場合であれば、その作業そのものはより長期的な目的を達成するための手段であり、それを未来永劫に続けるわけではないことを肝に銘じておくとよいだろう。
看護やソーシャルワークのような感情的負担の大きい分野にいる場合は、毎日くたくたになるけれど自分は他の人々を助ける仕事をしているのだと自分にあらためて言い聞かせよう。
異動や昇進なしでも職務内容を再設計
Getty Images=写真自分のものの見方は変えられなくても、自分の職務内容は変えられるかもしれない。職務内容を変えるためには、必ずしも別の部署に移ったり、昇進したりする必要はない。スプライツァーとレズネスキーは、ジョブ・クラフティングの手法を使って自分の動機や強みや関心にもっと合うように職務を設計し直すことを提案する。
なかには「大胆な手を打つ人もいる」し、権限の委譲の仕方やスケジュールの組み方を「少し変える人もいる」と、レズネスキーは言う。前者を実行するためには上司の承認が必要かもしれないが、後者はたいていの場合、必要ないだろう。
たとえば、自分にとって一番楽しい仕事はクライアントと話すことなのに、事務作業に追われてなかなかそれができないと感じている人は、毎日朝一番にクライアントと話をするようにスケジュールを組み直すかもしれない。そうすることで、終業時まで単調な仕事をやり続けるエネルギーを自分に吹き込むことができるのである。
逆に、楽しみは最後までとっておいて、1日の終わりに自分に対するご褒美としてクライアントと話をすることにする人もいるかもしれない。
仕事上のやりとりをする相手を変えてみる
もし気に入らないのが仕事そのものではなく一緒に働く相手である場合には、それも変えられることがある。
たとえばレズネスキーは、日常的に仕事上のやりとりをする相手を変えることで、職務満足度を高めることに成功した人たちを目にしてきたと言う。エネルギーを奪うのではなく与えてくれる関係を築くことにもっと力を入れよう。自分がもっとよい仕事をする助けになる人々を探し出すべく努力しよう。
レズネスキーが挙げているのは、病院で病室清掃を行っている作業員たちの例だ。
彼らはいつ病室が開いているかとか、どの製品を使えば入室患者にとって安全かといった情報を、中央一元管理の派遣センターから受け取っていた。
だが、派遣センターは必ずしもいつも最新の情報を持っているわけではなかった。そのため作業員たちは効率的に仕事をすることができず、不満を感じていた。やがて彼らは各病棟の事務員と関係を築き、それからはもっと正確な情報をもらって、もっと効率的に清掃作業ができるようになった。
もちろん、上司や同僚との関係がとくに難しい場合は、彼らと一緒に働き続けることはできないかもしれない。「ジョブ・クラフティングというものはどんな職務状況でも好転させられる万能薬ではない」と、レズネスキーは述べている。
トラブルの元凶となりがちな「愚痴」を言わない
自分に合わない仕事をしているときは、とにかく誰かに愚痴を聴いてもらいたいという思いに駆られがちだ。だが、それは賢明な方法とはいえない。
「仕事について愚痴を言うのはトラブルの元だ。その愚痴が何かの拍子に組織の他の人々の耳に入らないともかぎらない」と、スプライツァーは言う。
そのうえ、愚痴を言うと他の人々の気分も滅入らせる。不満があるのなら、自分の力では変えられないことについてぶつぶつ言うのではなく、むしろ自分が変えられることに重点的に取り組むほうがよいだろう。職務状況を改善したら、それまでより耐えやすい状況になるかもしれないが、次の一手を打てる態勢はつねに維持しておくべきだろう。
「職務状況を改善することは大切だが、新しい機会に対してアンテナを張っておくことも大切だ」と、スプライツァーは言う。最新版の履歴書を用意し、自分が行きたいと思う分野の人々とたびたび会うように心がけよう。