アベノミクスの傍らで…就職未内定7万7千人「現実の日々」
卒業シーズン真っ盛りのまさにいま、晴れ着姿の卒業生を横目に、リクルートスーツで懸命に就職活動を続ける若者たちがいる。大学3回生ではない。今春卒業した、またはまもなく卒業する若者だ。いまだ新卒学生7万人超が未内定というなかで、大阪市中央区にある人材派遣大手、パソナの大阪本社にはこの日も約20人の学生が集まり、真剣な表情で面接研修にのぞんでいた。「あきらめない」「まだまだがんばれる」。彼らの就活は、まだまだ本番真っ最中だ。
7万人超が未内定
新卒7万7千人が未内定-。そんな現状が今月中旬、厚生労働省と文部科学省の調査で明らかになった。
両省の調べによると、2月1日現在、今春卒業予定の大学生の就職内定率は81・7%で、前年に比べ1・2ポイント増えたものの、いまだ5年前のリーマン・ショック以前の水準には戻っていないという。大量の内定取り消しが出た”リーマン余波”はまだ続いているのだ。
そのうちの1人がA子さん(22)=大阪府高槻市。京都の私立大学を卒業予定の4回生だ。得意の英語を生かして卒業後は留学するつもりだったが、家庭の事情などで今年になって急遽(きゅうきょ)、就職に方向転換。そのときまわりを見渡すと、事実上、就活は終わっていた。「途方に暮れて。大学のサポートセンターに行って『今から就職活動するんですが…』と相談にいくと、ここを紹介してくれたんです」
「ここ」とは、パソナの「フレッシュキャリア社員制度」事務局。平成21年に始まった制度で、就職したい学生のいわば”駆け込み寺”だ。
仕組みはこう。選考にパスすれば同社の契約社員として採用され(1カ月の最低保証契約は1日・4時間)、研修後は同社内や提携する「パートナー企業」に派遣されて働く。その間、ビジネス研修や就職サポートを受けて自分で就活するもよし、提携先企業との”お見合い”で就職が決まる場合もある。
パートナー企業が中小企業の場合は特に、新入社員研修の必要がない▽派遣で経験するため仕事とのミスマッチがない(定着率が上がる)▽採用に関する業務が軽減できる-などのメリットがあるという。
マニュアルじゃダメ
「『自分を動物に例えたら? イノシシです。目標に向かって…』など、マニュアル本通りに面接で答えても意味がありません。面接者は答えなど聞いていませんよ。君たちの姿勢や話し方を見ているんです」
面接研修での一コマ。学生たちの顔がとたんに不安げになる。あふれるマニュアル本やネット情報などで学んでも、現実社会では通用しないことを思い知らされる瞬間だ。ではどうすればいいのか。
「答えはイノシシでもいいんですよ。ただそこに自分のエピソードを入れて、自分の言葉でどう一生懸命になったのかを具体的に話すこと。それが肝心です」
履歴書の書き方も、今更ではあるが教えてくれる。それも、企業側の視点から。思わず背筋を伸ばす学生が相次いだ。「いいですか、書類提出は期限も大事です。締め切りまでに出せばいいや…ではダメ。締め切り前には必ず殺到しますから、自分の履歴書を担当者にじっくり読んでもらいたいなら、余裕を持って出さなくては」という具合だ。さらに…。「履歴書を提出したとき、電話で問い合わせたとき、受付で名前を告げたときも、相手は印象を見ている。見られているんですよ。すでに選考は始まっているんです」
事務局を訪れる未内定者の実情はさまざまだ。事務局長の大友眞理子さんに聞くと、(1)内定をもらったが仕事がやりたいこととは違った(2)そもそも就活していなかった。またはやり方がわからない(3)企業を回ったが内定がもらえなかった(4)進学か就職か迷って結局スタートが遅れてしまった-などである。
とにかく1歩「今でしょう!」
スタートが遅れたA子さん。留学希望の延長で海外での仕事にこだわっていたが、同制度に参加して考えが変わった。「決まらなくて自信を失いかけていたんですが、研修を受けて自分に自信を持てた。仕事に関する視野も広がったので、いろんなことに挑戦してみようと思います」
「最近は失敗したがらない子が多い」という大友さん。数回失敗してあきらめたり、ひきこもってしまったりすることもあるという。そうこうするうちに、新卒採用は3回生へと移っていく。日本では、既卒でいったんフリーターになると、就職が難しくなるのが現状だ。その隙間をなくしキャリアを継続させるのが同制度で、「うまくいかないからと立ち止まってしまわず、とにかくいま1歩を踏み出すこと。この事務局に来るだけでもその1歩を踏み出したことになるんですよ」と、呼びかけている。