2014年卒新卒採用見通し~流通・サービス・情報の好調持続は不透明感漂う
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流通・サービス・情報の好調持続は不透明感漂う
新年を迎え、「今年は良い年になってほしい」「今年こそは良い年にする」と思う人が多いだろう。昨年末に誕生した安倍政権は経済の回復を取り組むべき第一の政策としていることからも、今後景気が回復するのではないかという大きな期待があるようだ。そのようななかで、今後の雇用の見通しはどうなっているのだろうか。
以下では、来年2014年に卒業する新卒採用の見通しを中心に、2012年12月19日にリクルートワークス研究所が発表した「ワークス採用見通し調査」を解説していきながら、今後の雇用の見通しについて見ていきたい。
「ワークス採用見通し調査」は来年度の採用についての増減について、新卒採用、中途採用ともに調査している。採用の増減に対する割合よりも、「増える」と回答した割合から「減る」と回答した割合を引いたポイント(以下、「増える―減る」のポイントと表記)で見ていく必要がある。
2014年卒者の採用数は増える!?
図表1は、2014年卒の新卒採用見通し(大学生・大学院生)と2013年度の中途採用見通しを示したものだ。新卒採用見通しは、「増える」(10.3%)が「減る」(6.9%)をわずかに上回っており(+3.4%ポイント)、大学生・大学院生の新卒採用は多少回復する見込みだ。
ただし、「わからない」が2013年卒の25.1%より微増の25.8%となっており、新卒採用市場は今後の景気動向に左右される可能性がある。
また、参考のために、2013年度の中途採用の見通しについてもここで少し触れておきたい。2013年度の中途採用の見通しついては、「増える」(7.5%)が「減る」(5.3%)を上回っている(+2.2%ポイント)。中途採用の見通しにおいて、「増える」が「減る」を上回るのは、2012年度の見通しに続いて2年連続である。正規社員の中途採用は、2012年度に続いて堅調に推移する見込みである。
新卒採用の見通しを、過去と比較するために時系列で見てみよう。図表2は、「ワークス採用見通し調査」を調査している2008年卒以降の新卒採用の「増える―減る」のポイントを表したものであり、図表3は経年の見通しを表したものだ。
図表2を見ると、2014年卒の+3.4ポイントは、2013年卒の+4.0ポイントとほぼ同じであり、前年と同様に推移すると言える。ただし、リーマンショック前の2008年卒(+15.8ポイント)や2009年卒(+11.2ポイント)の水準までには回復しているとはいえない。
大企業ほど採用に意欲的
図表4にあるように従業員規模別の見通しを見ると、どの従業員規模においても、「増える―減る」のポイントはプラスである。「増える―減る」のポイントが比較的に大きい従業員規模は、従業員2000~4999人企業(+8.2%ポイント)や、従業員5000人以上企業(+7.9%ポイント)などの大企業である。大企業ほどに採用に意欲的であるといえる。
2012年12月14日に発表された日銀短観の業況判断を見ると、製造業の大企業、中堅企業、中小企業すべてにおいて、足元や先行きの「良い―悪い」が2ケタのマイナスとなり、規模が大きくなるほど、業況は比較的良い状況である。規模によって景況感が異なることが大きな原因であると言える。
新卒採用について内需系業種は好調、外需系業種は不振
次に、図表5の業種別の見通しを見てみよう。業種別に注目すると、景気が後退局面にある中でも雇用が堅調である理由を把握することができる。
「増える―減る」のポイントは、製造業でマイナスであるが、その他の建設業、流通業、サービス・情報業においては、プラスである。
業種別を細かく見ると、飲食サービス業では3割近い企業(29.4%)が「増える」と回答している。また、「増える」が「減る」を大きく上回っているのは、飲食サービス業(+27.9%ポイント)や情報通信業(+10.0%ポイント) など一部のサービス・情報業や小売業(+10.7%ポイント)、精密機械器具(+9.1%ポイント)などの一部の製造業である。
精密機械器具については、スマートフォンやタブレットの部品製造などにより、積極的に人を採用している背景があるが、それ以外の業種に共通することは、いわゆる内需を中心とした業種であるといえる。
一方、「減る」の方が「増える」を上回っている業種は、鉄鋼・非鉄金属・金属(-8.4%ポイント)、 自動車・鉄道(-5.8%ポイント)、機械・プラント・エンジニアリング(-4.9%ポイント)など一部の製造業である。これらの業種に共通することは、いわゆる輸出産業であり、海外経済の不振や円高などにより業績悪化が新卒採用に響いていることが背景にある。
景況感が緩やかに悪化している中で、雇用は比較的堅調なのは、いわゆる内需系業種、特に飲食サービス業や小売業といった業種が好調であり、これらの業種が雇用を下支えする形となっている。
流通業やサービス・情報業が雇用全体を牽引
内需系業種が雇用を支えるといった状態は、いつから続いているのだろうか。
図表6は製造業、流通業、サービス・情報業を取り出して、「増える―減る」のポイントの経年推移を見たものである。
図表6を見ると、リーマンショック前の2008年卒、2009年卒の新卒採用においては、図表6に掲載されているいずれの業種においても、「増える」が「減る」を上回っている。特に、流通業とサービス・情報業はポイントが大きく上回っているのに対し、製造業については前述した2業種よりはポイントは低位にとどまる。
リーマンショック直後に当たる2010年卒の新卒採用では、どの業種についても「増える―減る」のポイントは大きく落ち込んだ。ただし、サービス・情報業は他の2業種よりも落ち込みはやや緩やかだ。
その後の動きには違いが明らかになる。製造業については、2012年卒、2013年卒の新卒採用でいったんは「増える」が「減る」をわずかながら上回るものの、2014年卒においては再びポイントがマイナスに転じてしまった。
その一方で、流通業やサービス・情報業は2010年卒の落ち込み以降順調に回復を続けている(ただし流通業については2014年卒は13年卒よりポイントがわずかながら落ち込んでいる)。
図表6を見ると、リーマンショック以降流通業やサービス・情報業は、雇用の点では回復を続け、全体を牽引していると言える。
内需系業種の好調が持続するかは不透明
今後も雇用は堅調に推移している状況を見ると安心するかもしれないが、中身を精査すると楽観視できない現実がある。流通業やサービス・情報業のうち特に雇用を牽引している、飲食サービス業や小売業の背景を調べると、その業界が抱える厳しい現実が浮き彫りになってくる。
第一に、これらの業種においては店舗におけるサービス提供が主な事業であるが、既存店舗をスクラップしながら、郊外店の大型商業施設やこれまで出店していなかった地域に新規出店を進め、新規出店をすることで既存店の業績悪化をカバーしようとしている。逆に言うと、多少景況感が厳しくて消費が落ち込んでいたとしても、新規出店を進めないと業績が上げられないといった事情がある。
第二に、これらの業種では人材の定着が進んでおらず、人材不足によりサービス提供に支障が出てしまっていることを背景に採用を進めるケースも見られる。図表7は厚生労働省が雇用保険の業務データを用いて、新卒採用(大卒者)の入社後3年以内の離職率を調べたものである。「ワークス採用見通し調査」とは業種のくくりが異なるので正確な比較はできないが、サービス業は離職率が高く、宿泊業・飲食サービス業(48.5%)は3年で2人に1人が辞める結果になっている。一方で、製造業は15.6%にすぎず、製造業とサービス業で大きく異なっていることがわかる。
この離職率のデータは雇用保険加入者によるため、新卒採用の中にも非正規雇用者が含まれており、離職率がいくぶん高めに出ている可能性は否定できないが、他の業種よりも定着が良くないといえるだろう。
また、これらの業種はどちらかというと求職者にとって不人気職種であり、必要な質量の人材を確保することが難しいという点もある。離職率の高さだけでなく採用難であることも重なり、これらの業種の求人ニーズがあったとしてもそれが実際の雇用に結びつくかは不透明であるといえる。
このように見てくると、景気の後退局面の中で雇用は依然として堅調ではあるが、その中身を見てみると、雇用を牽引している業界においても厳しい現実があり、今後雇用が増加していくは不透明だ。
安定的な雇用を増やすためには経済成長が不可欠と言わざるを得ないが、現状では経済が成熟化し劇的な経済成長が期待できない。さらに企業間の競争が厳しさを増す中でさらなるコスト削減によって雇用が増えない状況が現状であるといえる。
政権が変わり、雇用をどう作っていくか、そして安心して働ける環境をどうやって担保するのかといった点は今後も大きな課題である。リクルートワークス研究所では引き続き、このような課題解決に向けて研究を進めていきたい。