企業、学生に本音で語ろう

 シューカツ開始の時期を遅らせる議論が世間の話題をさらっていた4月1日。毎年繰り返される学生と企業のすれ違いがまた始まった。

■あいまいな基準

 住宅関連企業への就職を目指す都内私立大4年の小林将秀(仮名、21)は15社の選考試験で全滅した。アベノミクス効果で景気に明るさが見え始めているとはいえ就職戦線はまだまだ厳しい。小林は「面接でコミュニケーションがとれなかった」と反省する。

 学生は自らの力不足や技術不足が敗因と謙虚に分析する傾向が強い。だが、必ずしも当たっているわけではない。

 人材サービスのリクルートキャリアが今春卒業の学生に聞いた調査によると「企業の採用基準を知ることができた」のは29%にとどまる。人気企業が採用サイトに掲げる「求める人物像」を見れば理由は一目瞭然だ。「コミュニケーション能力がある人」「チャレンジ精神が旺盛な人」。あいまいな表現が並んでいる。

 こうした人材を選ぶ決め手となるのは面接だ。企業の人事担当者に基準を聞いてみた。「話が具体的か」「互いの話を客観的に分析できるか」。チェック項目はあるようだがわかりにくい。もう一押しするとこんな答えが返ってきた。「結局はフィーリング」(電機メーカー)、「一緒に働きたいと思うかが重要だ」(食品会社)。表立って公表はしないが語学力や出身大学といった基準がある場合も少なくない。

 学生が分析する敗因と企業の「本音」のずれ。それが人気企業に何万人もの応募が殺到するミスマッチと、就職できない若者を生み出す原因の一つなのではないか。

■キャリア考えず

 その問題点に企業も気づき始めた。就職支援のジョブウェブ社長の佐藤孝治は「落とした応募者には理由を伝えるべきだ」と提唱、自社でも実施している。経済界からも「求めている語学力や資格などの基準を見せた方が学生のためだ」(経済同友会)との声も出てきた。

 学生も意識を変える必要がありそうだ。リクルートワークス研究所によると大学の前半までに将来の進路を決める日本の若者は14.4%とアジアで最低。就職活動を始める時期が近づくまでキャリアを真剣に考えない学生の姿が浮かぶ。

 東京都荒川区の諏訪台中学では航空機の整備士やケーブルテレビのアナウンサーなどを講師として招く「校内ハローワーク」を実施している。校長の清水隆彦は「講師には仕事の厳しい面も伝えるよう頼んでいる」と語る。目標とする仕事には何が必要かを学生が意識し、早くから自己研さんに取り組む必要があると考えるからだ。

 連載第1部の第1回で登場した「シャープ危機」に揺れる三重県の亀山高校を改めて取材した。シャープの工場に毎年7人ほどの高校生を送り出していたが、今春の求人は関連企業も含めてゼロ。だが、蓋を開けてみれば100人の就職希望者の約8割が「一発合格」。残りの2割もほぼ全員が仕事を見つけた。進路指導部主任の前川明男は「介護など求人が増えている業種を紹介し、企業見学などで生徒の意識を高めた」と説明する。

 首相の安倍晋三は就活時期の繰り下げを経済界に要請した際、学生が能力向上に充てる期間を確保すると胸を張った。だが企業と学生の意識が近づかなければ何も変わらない。

日本経済新聞


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