「就職氷河期」変わらない 短期決戦、ブランド志向だけでは…

学生は自らの将来像明確に

 大学生の就職活動(就活)の解禁時期の繰り下げが決まった。就活の長期化で学生の負担が増しており、スタートを遅くすることで学生に勉学に専念してもらうのが狙いだ。限られた時間を有効に使うため、就活生は自分の適性を見極め、志望企業を早く絞り込まなければならない。

 都心のオフィス街には、真新しいリクルートスーツを着た若者が行き交っている。来年春に卒業する大学4年は、今月から始まった入社試験の最中だ。5月に入ると大手企業では最終面接を終え、事実上の内定を出すところが増えてくる。

 だが、この時期に就職切符を手に入れられる学生は一部にすぎない。ライフネット生命の調査では、大学生の平均就活期間は8・9カ月に及ぶ。現在の就活は大学3年の12月の会社説明会から始まるが、平均的な学生で大学4年の7月末まで就活が続く。

 それでも政府の就職内定状況調査では、今年3月に卒業した大学生の内定率(2月1日現在)は81・7%。昨年より改善はしたが、「就職氷河期」と呼ばれた2000年代初頭と変わらない低水準だ。卒業間近まで就活が続けば、大学生が専門教育を受ける時間を奪ってしまう。

 このため、安倍晋三首相の要請を受けた経済界は、就活の解禁時期を3カ月繰り下げることを受諾した。今の大学2年からは会社説明会の解禁を大学3年の3月とし、筆記試験や面接などの選考開始は4年の8月に遅らせる。大学3年までは勉学に専念する環境づくりを目指す。

 これは海外留学に挑戦する学生にも朗報だ。留学生は6月ごろに帰国するのが一般的だが、そのころには大手企業は内定を出し終えており、留学生には不利だった。企業は語学や国際感覚を身に付けた人材を求めているが、現行の採用慣行が留学を阻んできた面は否めない。

 ただ、今回の見直しでも企業が正式内定を出す時期は4年の10月で変わらない。これにより就活生は短期決戦を迫られる。就活戦線を乗り切るには、自分の適性を冷静に分析し、志望する業種や企業を早期に絞り込むなど、周到な準備が必要だ。

 その際、注意しなければならないのが大手企業志向だ。学生が志望企業を決める場合、どうしても知名度が高い大手が中心になる。

 大学の卒業生はだいたい55万人前後だが、従業員1千人以上の大手企業の求人数は15万人程度だ。景気動向によっても変わるが、大手には全体の3割未満しか入れない計算だ。最近は外国人留学生の採用が増えているほか、企業の厳選傾向も強まっているので競争は高まるばかりだ。

 なかでも就職ランキングに名を連ねるような有名企業の求人数は2万人程度とされる狭き門だ。就活生がそうしたブランド企業ばかりを回っていたのでは、短くなる就活の貴重な時間を浪費してしまいかねない。

 リクルートワークス研究所によると、2014年卒の大学生全体の求人倍率は1・28倍だが、景気回復機運の高まりで学生の大手志向が再び高まり、従業員1千人以上の大手では0・7倍だ。これに対し、1千人未満では1・91倍と多く、300人未満の中小企業に限ると3・26倍と大手の5倍に迫る水準だ。就職内定率を高めるには、中小企業への就職が鍵を握る。

 政府も中小企業への就職を促すため、大学にハローワークの窓口を設け、地元企業の求人情報を提供する動きが本格化している。だが、企業と学生を結び付けるには、学生自身の志望が定まっていることが条件だ。それには大学が早くからキャリア教育をスタートし、学生が自らの将来像を明確にする必要がある。

 政府が円滑な労働移動を政策目標に掲げるように、一度入った会社で定年まで勤め上げる人は今後、ますます減るだろう。大手企業といえども世界的な競争の中でいつまで生き残ることができるかわからない時代だ。

 このため、会社に依存することなく、自分でキャリアを磨くことが何よりも重要だ。中小企業に入り、幅広い経験を積むことはその後のキャリア形成に必ずプラスになるはずだ。

 今回の就活解禁時期の繰り下げは、横並びの新卒一括採用を前提としている。企業は通年採用や既卒者採用などにもっと積極的に取り組むべきだ。多様な人材を受け入れることは、企業の競争力を高めることにもつながる。それには年功序列の見直しや採用したい人材像を明確に示すなど、企業の意識改革も問われている。

SankeiBiz


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