危機感高まる採用担当者!内定出しはよりスピーディに(14年新卒採用最前線)
5月30日にリクルートキャリアの就職みらい研究所が発表した「大学生の就職内定状況調査(2013年5月度)」によると、5月1日時点での大学生の就職内定率は39.3%と昨年同時点の内定率30.7%と比較して8.6ポイント高い結果となった。理系大学院生も、67.5%と昨年同時期の55.8%と比べて11.7%高くなっている。
この調査結果から、昨年同時点と比べ、かなりスピーディーに内定出しが進んでいる様子がうかがえる。2014年卒の就職・採用戦線で一体何が起きているのだろうか?
「今年は早い」企業・大学から聞こえる声 企業の厳選採用にわずかな雪解け感
就職活動をしている学生にも、実感があるかもしれない。「もう内定をもらった」「すでに就活を終えている」なんていう人の話を、最近よく耳にする事はないだろうか。
筆者は仕事柄、大学のキャリアセンターや企業の採用担当の方々とお会いする機会も多いが、特に5月に入って以降、「今年は早かった」と言う声を多く聞く。とりわけ大手企業の内定出しが早かったと。なぜ”早かった”のか。まず、2014年卒の就職・採用環境の全体観から見てみたい。
ここ2年ほど、就職活動中の学生を取り巻いていた環境はどうだったのか。2012年卒は大卒求人倍率が1.23倍、震災影響で就職・採用活動が「分散化・長期化」した年だった。2013年卒は大卒求人倍率が1.27倍と前年よりわずかに回復、採用広報活動の開始時期変更に伴う「圧縮スケジュール」が導入された年であった。では2014年卒はどうだろうか?
まず、求人倍率から見てみよう。リクルートワークス研究所が4月末に発表した「大卒求人倍率調査(2014年卒)」によると、2014年3月卒の大卒求人倍率は、1.28倍と前年の1.27倍と比べて横ばい。しかし、注目すべきは倍率ではなく求人総数そのものだ。
巷では「アベノミクス」による経済状況の好転が期待されているが、残念ながら新卒採用予定数にはまだその影響は見られておらず、むしろ今年は減少した。具体的な数字で言うと、2013年3月卒の55万3800人から約1万人の減少。その背景には、実は従業員数100人未満の中堅・中小企業の採用予定数は、リーマンショック以降ずっと前年マイナスが続いている状況がある。そのうえ、ここ数年全体の求人数を押し上げていた1000人以上企業の求人数も3年ぶりに対前年マイナスに転じたのである。
求人総数(採用予定数)の減少は、就職者数にどう影響するのだろうか。
求人数が減ったとはいえ、就職希望者数を上回る状況が続いており、ゆえに最終的な就職者数の増減は、企業側の採用基準がカギを握る。「就職白書2013」によると、前年と比較した自社の採用基準について「前年並み」と回答した企業は全体の76.1%と最も多かった。
しかし「厳しくなる」が17.0%と1.0ポイント低下したのに対し、「緩くなる」が前年より0.4ポイントとわずかに上昇。また、2014年卒の採用数が満たなかった場合の対応については「採用数に満たなくても求める人材レベルは下げない」と回答した企業が前年と比較して3.3ポイント減少しているのだ。こうしたことから、企業は基本的には厳選採用のスタンスを崩しはしないものの、わずかながら緩和の兆しも見られているのである。
スピーディーな内定出しの背景にある採用担当者が抱える2つの危機感
では、企業は基本的には前年と同様の採用スタンスであったのにもかかわらず、どうして内定出しが早かったのか。筆者は以下の二つが大きな理由として挙げられるのではないかと見ている。
①好景気が生み出す、焦燥感。アベノミクスは採用担当者の心理に影響
最近、記者の方などからは「アベノミクスによる新卒採用への影響は?」と聞かれることがある。雇用、特に新卒採用予定数は遅行指数であり、まだまだその恩恵が見られていないとみるのが適切であろう。また、過去の反省(バブル崩壊後に景気悪化の影響を受けて新卒採用数を大きく減らし、企業の人員構成にひずみができており、現在も解消しきれていない)を踏まえ、景気動向に大きく左右されずコンスタントに一定数を採用するというスタンスをとっている企業も珍しくない。
アベノミクスの影響が今の新卒採用市場において見られているのは、採用担当者の心理的な面ではないだろうか。今後仮に景気が良くなっていくとすると、おそらく採用の競争は激化する。採用の現場には、そうした危機感から”今しっかり採用しなければ”という心理が働いているようだ。「自社で活躍しそうないい人を採りたい」というのは人事採用の永遠の命題ではあるが、特に今後の景気予測が比較的ポジティブな現状においては、このような危機感が、スピーディーに内定を出すという行動を後押ししているように感じられる。
②2年目の圧縮スケジュール。昨年の二の舞は演じるまい
2013年卒から企業の広報活動開始時期が2カ月後ろ倒しされ、2014年卒採用は圧縮スケジュールの2年目だ。2013年卒で思うような採用結果が得られなかった企業は”スピード勝負”の策を入念に練り、今年の採用活動に臨んでいる。昨年は、スピード勝負と分かっていたけれど対応が遅れてしまった企業も多く、採用力のある企業とそうでない企業の差が明確に分かることとなった。
超大手や知名度の高い企業は順調に採用活動を終え、一方で準大手やBtoB企業などは、最終面接を直前にキャンセルされてしまうなどといったケースが多々見られていた。それらの反省を踏まえ、改めて2014年卒はスピード勝負の体制を組んで臨んでいる企業が少なくない。
景気回復では払しょくできぬ就職不安 楽観視せず、着実に歩む学生達
一方で、学生側の反応はどうか。声を聞くと、今の景況感を受け自らの就職活動を楽観視している学生はほとんどいないと感じる。就職活動を終えた学生が”思ったほど厳しくなかった”という感想を述べるケースはあるが、それはこの景況感の恩恵というより、自身の予想とのギャップによるものであり、これまで報道や諸先輩などから見聞きしていた内容と比べると、思ったほど厳しくなかったという意味である。
今の学生は、自分の就職先がきちんと決まるのか、大きな不安を抱えている。リクルートキャリアの「大学生の価値意識調査」では、大学生に対して自身の将来イメージを尋ねている。自分自身の将来が「明るい」と回答したのは36.1%で、「明るくない」27.9%に比べ、8.2ポイント高い。
学年別に見ると、自分の将来は「明るい」と答えた学生が一番多いのは、大学4年生だ。調査は11月末に実施しており、4年生の約8割は内定を取得しており、約7割は進路が確定している段階。将来を明るく思える理由のひとつに、就職先(進路)が決まっていることが少なからず影響していると考えている。
この調査では大学卒業後の進路について考えるときの気持ちも尋ねている。「楽しい」と回答した学生は23.5%、「不安」と回答した学生は58.3%と「楽しい」を34.8ポイントと大きく上回った。
さらに「不安」だと思う理由について見てみると、なんと81%は就職できるか心配だからと回答しているのである。いかに今の大学生たちが自分の将来キャリアに不安を抱いているかが垣間見える事実である。
まだまだ間に合う、中小企業選びの鍵は一緒に働きたいと思える人がいるかどうか
スピーディーに内定出しが進んでいるとはいえ、就職活動はまだまだ中盤戦。大手企業の多くは5月までに内定出しを開始しているが、全体でみると、わずか29%にとどまっている。つまり7割の企業は、6月以降に内定出しを開始するということだ(リクルートワークス研究所の「大卒採用構造に関する調査レポート」)。リクナビ2014を見ても、6月3日時点で約8300社がエントリーを、約3500社が説明会参加を受け付けており、まだまだチャンスは存在している。
今後、中堅・中小企業が中心となる就職/採用活動。これから始める人は、どのように自分にとって”よい企業”を見つければ良いか。ぜひ大切にしてほしいのが「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」という視点だ。
学生から「よい中小企業」の見分け方を聞かれることも多い。しかし、大手企業を見る時と同じく、財務諸表や福利厚生、その他制度にばかり目を向けると、見劣りする点ばかりが気になり、志望動機を膨らませるのは難しい。実は、就職先を見つけた先輩たちが「企業を選ぶときに重視した条件」は、就職活動を始めた頃とその後で大きく異なっている。もっともポイントが上がるのが「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」だ。就職活動を通じてそうした人との出会いがあり、ここでなら頑張れると覚悟を持てた企業が、あなただけの、あなたにとっての”よい企業”なのだ。
何より、「就職したい」と強く思う気持ちが一番の原動力。これから就職活動を始める方も、決して焦らず、目の前に広がるチャンスに積極的に挑戦してほしい。