米国の長期失業者、労働市場でますます形勢不利に
米国のリセッション(景気後退)は4年前に終了した。しかし、多くの求職者にとって、引き続き景気回復はほとんど感じられない。
5月には1200万人近い米国人が失業していた。これはピーク時の1500万人超からは減少したが、2007年12月にリセッションが始まった時点と比較すると引き続き400万人以上上回っている。さらに数百万人が仕事を探すのを諦め、もはや失業者としてカウントされなくなっている。仕事に就いているか、職を探している人々の人口に占める割合はほぼ30年ぶりの低水準に達している。
それでも労働市場は改善している。失業率はピーク時の10%から7.6%に低下している。リセッションの終了以来では510万の職が、そして2010年初めの労働市場の底入れ以来では630万の職が創出されている。そして月間の増減にすべての注目が集まるなか、過去2年間の雇用の伸びは月間約17万5000件と、かなり安定したペースを維持している。
問題はこのペースが、リセッションで生じた巨大な穴を素早く埋めるには引き続き非常に遅すぎるということだ。米シンクタンク、ブルッキングス研究所の調査グループ「ハミルトン・プロジェクト」によると、採用率が2倍になったとしても、雇用がリセッション以前の水準に戻るには人口増の調整後で3年以上かかる公算だ。
ブルッキングス研究所のエコノミスト、アダム・ルーニー氏は「月間17万5000件の職(というペース)では何年もかかる」と指摘し、「いわばこれはリセッション中にどれほど減少し、回復がどれほど遅いかを物語っている」と続けた。
雇用拡大の遅々としたペースについてエコノミストたちは広範にわたる説明をしている。政策の不透明感や企業が必要とするようなスキルを持った労働者の不足、予算削減のために公共部門で、リセッション終了以来70万人超の雇用者が削減されていることなどだ。しかし、エコノミストの大半は、主因は単純だと指摘する。つまり、雇用拡大を促すには景気拡大が遅すぎるということだ。企業のレイオフ件数はリセッション以前の水準を下回っている。つまり人員縮小を停止したが、回復には実際の採用が遅すぎる。このところの金融市場の混乱に加え、中国をはじめとする新興国経済で成長鈍化の兆候で企業がさらに慎重になり、計画された採用がますます先送りされている。
水面下では、労働市場が二分している兆候がある。月次のデータでは、失業期間が6カ月以内の雇用者の25%近くが職を見つけている。これはリセッション以来安定した改善が示されている数字だが、これまで長い間の平均である30%を引き続き下回っている。
米国の440万人におよぶ長期失業者の間では同様な改善はみられていない。雇用が見つかる長期失業者は長期失業者全体の約10%にすぎない。この数字は過去2年間、ほとんど変化していない。エコノミストのランド・ガヤド氏は最近、実験として約600の求人に対し偽りの履歴書を送った。6カ月以上失業していることを示す履歴書では、スキルや経験に関係なく、雇用主からの回答率がずっと低かった。
ガヤド氏は「長期間失業していると、(企業の)誰も電話を返してくれない」と述べた。
ケン・グレイさん(59)はこうしたいら立ちをじかに経験している。グレイさんの妻は卵巣がんでの闘病後、2011年1月に亡くなった。20年以上勤めていたAT&Tで、顧客担当者をしていたグレイさんはその3カ月後にレイオフされた。まだ妻の死を悲しんでいたグレイさんはすぐには職探しに全力を向けることができなかったと話す。シカゴに住むグレイさんが職探しに全力を向け始めた時には、既に長期間失業している状態だった。そして、応募に対して潜在的な雇用主から返答をもらうのにさえ苦戦している。
グレイさんは「非常に落胆する」と話した。「何も返答がないのなら履歴書を送る意味がどこにあるのかと自問することになる」と続けた。
グレイさんは昨年、失業手当が切れて以来、どんどん減っていく貯金で生計を立てている。それでも引き続き仕事を見つける覚悟だという。しかし、長期的な求職者は職を見つけるよりも労働市場を去る公算が2倍も大きく、専門家の多くは長期失業者の多くが2度と労働市場に戻らないのではないかと懸念している。そうなればずっと失業しているという1つの階級が生じることになり、米経済に長く傷跡を残しかねない。
長期的失業者をターゲットとするプログラムを開発したコネティカット州の労働力開発機関ワークプレースのジョー・カーボーン社長は「人々がもはや雇用されると考えられない点に到達すると、そこから彼らを引き戻すのは非常に困難だ」と語った。「日ごとに数千人を失っている。まるで伝染病のようだ」と続けた。