海外駐在員にメンタルヘルス問題が起きる4つの要因

メンタルヘルスの実態

 年々周りで「最近、メンタルが増えている」「当社でもメンタルになった者が出た」「最近、精神的に参っているものがいて…」といった言葉を耳にする機会が増えているように感じる。

 アジア地域での海外邦人救護統計(外務省調べ)を見ると、ここ3年で、精神障害の救護件数自体は、2008年108人、2009年118人、2010年90人という推移に対し、自殺及び自殺未遂は、2008年23件、2009年36件、2010年45件と、増加傾向にある。この数値は、全世界では、2008年58件、2009年68件、2010年79件と、アジアでの増加が、ほぼそのまま数値に反映されていることになる。

 そこで、2回に分けメンタルヘルスの実態について、今回は、「メンタルヘルスの要因」、次回は、「メンタルヘルス対策」をご紹介したい。

メンタルヘルスの要因

 メンタルヘルスを引き起こす要因には、業務のプレッシャー、人間関係、業務量、帯同家族も含め海外での生活にうまくなじめない、等様々なものが考えられる。

(1)業務体制

 海外特有という観点では、日本の業務体制と大きく異なる点に起因するものが考えられる。日本では、本社機能等により、専門部署による分業体制が通常敷かれているが、海外現地法人の場合は、小さい組織であっても一つの事業会社であり、そこで皆さんが、これまでに経験したことのない専門外の事項も含め数多く所管し、一人何役もの責任体制に、非常に苦労を重ねていることと思われる。

 重ねて、多くの企業が、アジア、殊更中国での事業拡大に注力されており、日本本社からの期待も日増しに大きくなる一方である。この期待は、前向きに捉えると、声援、支援、激励等ととることができるが、逆に捉えると、強烈なプレッシャーとなる。

 ましてや、失敗が許されない環境ともなると、ますます圧力が増大する。慣れない環境下や異なる商習慣でのビジネス、突然の法改正、頼りにしているスタッフの突然のショブホッピング、日本本社からの具体的支援のない状況下等、マイナス要素は無数にあるといっても過言ではない。

(2)駐在員の若年化

 駐在員の若年層化が一層進んでいる。外務省の海外在留邦人数調べを見ると、中国全土での在留邦人数は、2000年では46,090人だったのに対し、2010年では、131,534人と、10年で約2.9倍となっており、人材の投資といった意味でも、急展開を見せており、一昔前のように、海外のどちらかで過去にマネジメント経験がある、語学研修で十分な語学スキルを備えた上で赴任…、という環境ではなく、過去のマネジメント経験や言葉を二の次にして、即現場にといった状況が、刻々迫っている。

 このマネジメント経験を持たない、もしくは経験の浅い若年層が、ベテランを含めた現地のナショナルスタッフの中に入り、期待以上の圧力を背負うと、どうなるかは容易に想像がつくものと思われる。

(3)閉ざされた社会

 海外においては、どうしても少人数の閉ざされた社会になりがちである。上司はもとより、現地法人内の駐在員コミュニティ、居住区のコミュニティ、配偶者や子供を介したコミュニティ等、日本でも一定程度社宅のつきあい云々等はあるが、その比ではないと思われる。

 そんな環境下、各種コミュニティとの関係が好転している間はいいが、ささいなことがきっかけで関係がこじれる事もあり、こういった情報・雰囲気等は、狭いコミュニティ間では、瞬く間に派生・伝達していく。

 また、帯同家族のメンタルヘルスといった問題もよく耳にする。駐在員は、昼間は仕事、夜は接待・懇親に明け暮れている場合において、家に残された配偶者・子供が、現地コミュニティに馴染めず、家に引きこもりがちという事もよく耳にする。

(4)日本本社からの支援体制

 日本本社からの支援について、現地の方々が「十分!」と満足しているケースは必ずしも多くないように感じる。かねてより、よく現地の方々の間では、「OKY:お前、来て、やってみろ(の頭文字)」という言葉があり、表現は少し乱暴ではあるが、現地の方々が日本本社に対し「もっとわかってもらいたい」、「もっと踏み込んで支援してもらいたい」と思っている現状が示されていると思われる。

 本来、新境地での活躍を期待されているはずの駐在員の役割・立場が、成果を求められる一方、失敗が出来ない環境下、期待が日に日に重圧となり、またこの重圧を共有することができる相手がいず、ついには耐え切れず、身体に来たした心理的なゆがみや変調が元に戻れず、メンタルヘルス不全になっていくことが多いと思われる。

 厳しい環境下でも持ちこたえることが出来る要因の一つに、「モチベーションの維持・高揚」があると考える。様々な締め切りがある中、成果を求められ、多忙な業務、日本本社からの指示やその逆の要報告事項等々に迫られる中、業務にやりがいを感じたり、面白かったり、興味深かったりと、前向きにプラス要素で考えることができる場合には、基本は問題ないと考えられる。

 しかし一方で、何故一人でここまで背負わないといけないのか、もう限界、等とマイナス要素で考え始め、このプラスマイナスのバランスが少しでも、マイナスサイドに傾き始めると、容易に倒れるのではと感じている。


海外邦人救護統計(サーチナニュース)


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