広がる「マタハラ問題」への反響-対立ではなく長期的視点で理解を
「マタハラ」という言葉の認知が急速に広まっている。
連合が5月に行った調査では、マタハラの被害割合がセクハラのそれを上回る結果となり、メディア各社が報道、それに対してインターネット上では賛同や批判が多数寄せられた。
マタハラとは、マタニティ・ハラスメントの略であり、働く女性が妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的な嫌がらせを意味する。そして、そのマタハラはセクハラよりも多いのである。
メディア各社の記事への反応をみると、反論もあった一方で、賛同する女性、男性の数も多かった。働く女性、男性の間でこの問題に対する関心が高いことがうかがわせる。ツイッターなどでは「自分もマタハラにあった」と、具体例を挙げる女性の声も多く見られた。
そんな中、連合は5月27~28日に「働く女性のための全国一斉労働相談キャンペーン」を実施した。相談件数は700を超え、このうちマタハラに関する相談は「現在集計中だが、これまでにないくらいの高い割合」(連合)が寄せられたという。
「切迫流産のため仕事を休んだが、結局、流産となった。会社から『現在の課長の役職を降格する』と聞かされた。就業規則上の降格の理由には該当しない。精神的にかなりまいっている。どのように対応すればよいか」
「出産時に退職を強要された。拒否すると、それからいじめがひどくなった。親会社にはハラスメントの窓口はあるが力にならないと聞いている」
「現在、産後休業中。育休取得を申し出たところ、会社から『代替要員を雇う。正社員を雇用したら、どうなるかわかっているね』と言われた」
といったような、実際に妊娠しハラスメントを受けたケースが寄せられた。
さらに、
「妊娠しているわけではないが、30代後半になり子どもも欲しいし、仕事も続けていきたい。社内では、有期の契約社員は、妊娠したら仕事を辞めることが当たり前になっている」
と、今後を心配する声も聞かれた。一方で、
「産休の女性のために自分たちの仕事量が増える。逆差別だ」
という相談もあったという。
実際、5月22日の記事に対しても「他の社員にしわ寄せがくる」という批判があった。
そうした職場の周囲の雰囲気を女性たちも感じ取っている。
連合で電話相談に当たった女性の担当者によると、相談してくる女性は居丈高に権利を主張するようなケースはほとんどなく、心配そうだったり、申し訳なさそうにしている場合が多いという。
連合が5月に行ったマタハラに関する意識調査の回答でもその傾向が現れている。
産休・育休を取得した社員のしわ寄せがくることに納得がいかない人もいるだろう。しかし、スキルを持った女性が退職してしまえば社会にとっても損失ともいえる。加えて、働く女性が子どもを産みやすくすることは、少子化対策としても効果があるだろうから、長期的な視点に立つことも重要だ。
また、非正規社員や夫がいない、あるいは夫が低賃金である女性へのマタハラと安易な退職の催促は生活基盤すら危うくする。
マタハラという言葉がクローズアップされることで、妊娠する女性と周囲の職場の社員が対立してしまうような状況は望ましくない。流産や死産を招いてしまうような過酷な状況は早急に解決しつつ、同時に、社会や職場での意識変革は批判も受け入れつつ、醸成していく必要がある。