2012年3月期決算(全上場企業)「役員報酬1億円以上開示企業」調査 ~ 役員報酬1億円以上 172社 295人 ~

20123月期決算の上場企業2,517社のうち、役員報酬1億円以上を開示した企業は172社、人数は295人だった。前年(20113月期)より社数で1社(前年173社)、開示人数は3人(同298人)減少した。

 役員報酬の最高額は、カシオ計算機の樫尾俊雄元会長(故人)が133,300万円(前年は開示対象外)で、103月期決算にこの制度が始まって以降、初の報酬総額10億円超となった。

 

 295人の役員報酬総額は5184,700万円(前年4996,000万円)で、前年より188,700万円増加した。役員報酬の主な内訳は、基本報酬が3066,500万円(構成比59.1%)、賞与が885,100万円(同17.0%)、退職慰労金(引当金繰入額含む)が785,000万円(同15.1%)だった。

 開示人数の最多はファナック(東証1部)の14人だった。前年(6人)より8人増加し、前年の最高開示人数(8人)を更新した。次いで、前年の最多人数(8人)だった大塚ホールディングスが10人で続いた。役員報酬1億円以上が複数人だった企業は64社(構成比37.2%)で、前年の70社を6社下回った。(ヤフーの井上雅博氏がソフトバンクと重複し、個人では2人とカウント)

 役員報酬の個別開示があった172社のうち、銀行を除く171社の業績(単体)は、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益ともに前年を上回った企業が60社(構成比35.0%)にとどまった。

 

◆役員報酬 カシオ計算機 樫尾俊雄元会長が制度初の10億円超

 

 123月期決算の役員報酬の最高額は、カシオ計算機の樫尾俊雄元会長(故人)が133,300万円(提出会社だけからの報酬、前年開示対象外)。103月期から開始した開示制度で初めて10億円超だった。次いで、103月期、113月期と2年連続で最高額だった日産自動車のカルロス ゴーン代表取締役社長兼最高経営責任者が98,700万円(同、同98,200万円)、フジプレアムの松本實藏会長が85,000万円(同、同開示対象外)、アールビバンの野澤克巳元代表取締役社長が77,000万円(同、同)、平河ヒューテックの隅田和夫会長が75,600万円(同、同)と続く。

 上位5人のうち、日産自動車のカルロス ゴーン社長を除く4人が前年は開示対象外で、退職慰労金(引当金繰入額を含む)だけで1億円以上を受け取り、初めて1億円以上で開示された。上位10人では、日本人が8人を占めた。

 前年報酬額が2番目に高額だったソニーのハワード・ストリンガー氏は、報酬額46,600万円(提出会社及び連結会社からの報酬、同88,200万円)で10位だった。

 

 

 個別開示対象295人のうち、2年連続の開示対象者は210人。このうち、111人が前年より役員報酬額が増加し、減額は80人、同額は19人。新規開示(前年開示なし)は85人だった。

 295人のうち、役員報酬額10億円以上は1人(前年0人)、9億台は1人(同1人)、8億円台は1人(同2人)、57億円台が6人(同4人)、24億円台が48人(同39人)、1億円台が238人(同252人)。2億円以上が57人と前年(46人)を上回るが、引き続き1億円台が8割を占める。

 

 295人の役員報酬総額は、5184,700万円(前年4996,000万円)だった。役員報酬の主な内訳は、基本報酬が3066,500万円(構成比59.1%)、賞与が885,100万円(同17.0%)、退職慰労金(引当金繰入額含む)が785,000万円(同15.1%)、ストックオプション327,300万円(同6.3%)、業績連動報酬(47,400万円)、中期インセンティブ(19,200万円)など。役員任期中の安定報酬である基本報酬が主体の報酬体系に大きな変化はない。

 上位50人の役員報酬総額は187100万円。主な報酬内訳では基本報酬87億円(構成比46.5%)、退職慰労金(引当金繰入額含む)595,200万円(同31.8%)、賞与265,000万円(同14.1%)、ストックオプション13400万円(同6.9%)。

 上位50位では、全体に比べ基本報酬が12.7ポイント、賞与が3.1ポイントそれぞれダウンし、ストックオプションが0.6ポイントアップしている。なお、退職慰労金(引当金繰入額を含む)は16.6ポイントと大幅にアップし、経営者の世代交代が進んだことをうかがわせている。

 

 295人のうち、提出会社だけからの役員報酬は230人(構成比77.9%、前年226人)で最多。このほか、提出会社と連結会社の両方から役員報酬を受け取ったのは55人(同18.6%、同65人)、連結会社のみから役員報酬1億円以上を受けたのは10人(同3.3%、同6人)だった。

 上位10人では、里見治氏、三津原博氏、ハワード・ストリンガー氏が提出会社と連結会社からの報酬で、残り7人は提出会社だけからの役員報酬だった。

 

◆法人別人数 ファナックが14

 

 20123月期決算で、法人別の役員報酬1億円以上の開示対象者の最多は、ファナックの14人。同社は、前年に引き続き好調な業績を維持し、前年(6人)から約2.5倍に増加、開示制度最多人数を更新した。同制度では初めて常勤監査役も1億円以上の報酬を受けた。

 以下、大塚ホールディングスが10人、日産自動車、三菱商事が各6人、三井物産、住友商事、ソフトバンク、伊藤忠商事が各5人と続く。グルーバル展開をしているメーカー、商社などが上位に並んでいる。

 個別開示対象人数別では、1人の企業が108社(構成比62.7%、前年103社)と最も多く、2人が42社(同24.4%、同46社)、3人が9社(同5.2%、同11社)と続く。複数の役員に対し1億円以上の役員報酬を支払った企業は64社(構成比37.2%)で、113月期70社(同40.4%)より3.2ポイントダウンした。

 

 

 個別開示した172社のうち、2年連続で個別開示した企業は142社。このうち、18社は前年より個別開示対象者が増加、21社が減少した。同数は103社。一方、前年に個別開示したものの、20123月期は個別開示がなかったのは31社。そのうち、前年は個別開示対象者が複数人いたのは、シャープ、大和証券グループ本社、TDKなど8社。

 

 赤字決算(単体決算)で、複数人の役員に1億円以上の役員報酬を支払った企業は、日産自動車(6人)、大日本印刷、エイベックス・グループ・ホールディングス(各4人)、バンダイナムコホールディングス、ソニー、セガサミーホールディングス(各3人)など21社。

 カシオ計算機、フジプレアム(各1人)は赤字決算。また、無配だったが、1億円以上の役員報酬を支払った企業は6社で各1人づつ。

 

 粉飾決算が発覚したオリンパスは、赤字で無配だったが、マイケル・ウッドフォード元社長の役員報酬13,900万円(うち賞与3,800万円は労働審判に係る和解契約が締結されたため支払わない予定)が開示された。

産業別 製造業が91社・151人で最多

 

 役員報酬1億円以上の個別開示を産業別でみると、製造業が91社(構成比52.9%、前年90社)・151人(同51.1%、同163人)と最も多かった。次いで、サービス業他(持ち株会社を含む)が34社(同19.7%、同40社)・67人(同22.7%、同71人)、卸売業が19社(同11.0%、同16社)・37人(同12.5%、同29人)と続く。

 一方、農・林・漁・鉱業では役員報酬の個別開示は3年連続で該当者はいなかった。

 個別開示社数・対象人数が最も多かった製造業では、金属加工機械製造業の対象人数が10人→18人(8人増)、事務用機械器具製造業が4人→7人(3人増)、医薬品製造業が16人→19人(3人増)などが増加した。前年は、自動車・半導体業界で高額報酬が続出したが、ソニー(6人→3人)、トヨタ自動車(6人→2人)などは、東日本大震災や円高などの影響で個別開示人数が減少している。

 

◆市場別 東証1部が140社・254人で8

 

個別開示のあった企業を市場別(東証及び大証の両市場に上場している場合は東証でカウント)にみると、東証1部が140社(構成比81.4%、前年141社)・254人(同86.1%、同260人)で、ともに8割以上を占めた。次いで、JASDAQが23社(同13.3%、同22社)・31人(同10.5%、同27社)、東証2部が5社(同2.9%、同5社)・5人(同1.6%、同5人)、大証などの地方上場が4社(同2.3%、同5社)・5人(同1.6%、同6人)の順だった。

 社数・人数がともに最多だった東証1部は、大企業が中心で、国内だけでなく海外にも事業基盤を構築しているグローバル企業も多い。一方、新興市場は設立の浅い企業が多く、内部留保の充実や事業基盤の強化などを優先させ開示社数・人数が少なかった。

 

◆業歴別 業歴50年以上が6

 個別開示のあった企業を業歴別でみると、50年以上100年未満が100社(構成比58.1%、前年108社)・172人(同58.3%、同193人)、100年以上が6社(同3.4%、同6社)・11人(同3.3%、同10人)。業歴50年以上の個別開示は106社(同61.6%、同114人)・183人(同62.0%、同203社)で、全体の約6割を占めた。一方、10年未満は、12社(同6.9%、同13社)・30人(同10.1%、同29人)。一定の事業基盤が構築されている業歴の長い企業と、事業基盤の形成途上にある業歴の浅い企業では、個別開示社数・人数に格差が生じた。

 

◆従業員平均給与 平均1,000万円台が開示人数が最多

 個別開示のあった企業の従業員平均給与をみると、社数では700万円台が46社(構成比26.7%、前年38社)で最多。次いで、前年最も多かった600万円台は42社(同24.4%、同49社)、500万円台が23社(同13.3%、同28社)と続く。開示人数では、1,000万円以上が77人(同26.1%、同53人)と最多。次いで、700万円台が69人(同23.3%、同57人)、600万円台が82人(同18.9%、同82人)と続く。従業員の平均給与1,000万円以上の企業で、個別開示人数が多く、役員だけでなく従業員にも相応の給与が支払われていることがわかる。

 

 20123月期決算は、サプライチェーン寸断や電力問題など東日本大震災の影響が役員報酬の個別開示にどう出るか注目されたが、社数及び人数ともに僅かな減少にとどまり、個別開示の報酬総額は前年を上回った。さらに初の報酬額10億円超も出現した。

 役員報酬額は、「経営方針」、「業績」、「配当」、「長年の実績(会社への貢献度)」など、様々な基準で報酬額の妥当性が判断される。3年目を迎えた役員報酬の個別開示制度は多くの人に認知されるようになった。現在、上場企業に限らず「コーポレート・ガバナンス」(企業統治)の充実が企業に求められている。その意味で役員報酬は、わかりやすい基準の一つになっている。今後は、これまで以上に株主や従業員、金融機関、取引先などステークホルダー(利害関係者)への説明責任としての位置づけが高まってくると思われる。


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