その控除できる? できない? 「賃金支払い5原則」
賃金は、労働時間とならび最も重要な労働条件だといわれています。そのため、労働基準法では、確実に労働者に賃金が支払われるよう「賃金の支払い5原則」を定めています。ただし、意外と正しい取り扱いを理解されていないものです。今回は賃金の正しい支払い方について見ていきましょう。
まず「賃金」とは
「労働基準法」では、賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義しています。民法では、労働者が賃金を請求する権利は、実際に労働を提供した後に生じるとされています。つまり、労働力は形がなく、個々の労働者が持参する以外に提供できない特殊な商品であるため、使用者にとって、あらかじめ対価を支払う性質のものではないからです。
しかし労働者は、賃金を得ることで生活を成り立たせているので、いつ賃金を支払うかなど、まったく使用者の自由にするわけにもいきません。そこで労働基準法では、賃金の支払い方法について、次のような「賃金の支払い5原則」を定めています。
①通貨払いの原則
②直接払いの原則
③全額払いの原則
④毎月払いの原則
⑤一定期日払いの原則
通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなくてはなりません。正確に価値が評価できない現物給与や、換金に時間がかかる通貨以外での支払いが禁止されています。そのため、原則として小切手での支払いも認められません。
ただし、銀行口座への振り込みは、①本人の同意があり、②本人名義の口座へ、③支払日に引き出せるのであれば、許されています。本人の同意とは、本人が口座を指定する程度でよいとされていますから、「給与振込先口座届」などの社内様式を作って本人に届出てもらえばよいでしょう。
直接払いの原則
賃金は、直接、本人に支払わなくてはならず、労働者本人以外に賃金を支払うことは禁止されています。本人以外には、実の親であっても支払ってはならないのです。ただし、本人のハンコを持参し、本人名義で受け取りにきた妻子に対しては、本人の手足の延長とみなされ、支払ってもよいとされています。
全額払いの原則
賃金は、支払うべき全額を支払わなくてはなりません。使用者の裁量で、親睦会費などを勝手に控除することはできません。ただし、次の場合は、賃金から控除することが認められていま
す。
①法令に別段の定めがある場合
所得税、住民税、社会保険料の控除
②労使協定による場合
法令に定められたもの以外に、労働組合費、親睦会費などを控除するとき労使協定による場合は、「控除の対象となる具体的な項目」「控除の対象となる賃金支払期」を定める必要があります。
なお、遅刻した者から実際に不就労の時間を超えて、たとえば「1回の遅刻で半日分の賃金を控除する」などを制裁扱いとして実施する場合は、全額払いの原則に反しません。
毎月払いの原則
賃金は、毎月1回以上支払わなくてはなりません。そのため、「年俸制」のように、1カ月を超える期間で賃金を定める場合も、分割して毎月支払う必要があります。
一定期日払いの原則
賃金は、毎月一定の期日に支払わなくてはなりません。一定期日とは、10日、25日というように暦日にするか、またはその日が特定される方法(例えば、毎月末など)であればかまいません。「毎週金曜日」というように、周期的に到来する場合はかまいませんが、「毎月第3月曜日」というものは、その月によって日にちが異なるため一定期日とは解されず、認められません。支払日が休日にあたる場合などは、前日にしても翌日にしてもかまいませんが、いずれかに特定する必要があります。
毎月払い、一定期日払いの例外
①臨時に支払われる賃金
結婚手当、傷病手当、退職金のように、臨時的、突発的事由によって支払われるもの、あるいは、条件はあらかじめ確定しており、支給事由の発生が極めて不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいいます。
②賞与
定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないものをいいます。
③その他準ずるもの
・1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
・1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
・1カ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当