これからの年金制度はこう変わる!
これからの年金制度はこう変わる!
社会保障と税の一体改革の一環として、パートタイマーへの社会保険の適用拡大、産前産後休業中の保険料免除などを盛り込んだ国民年金法等の改正法案が、8月10日に成立し、8月22日に公布されました。高齢化の進展とともに、年金問題はますます大きくなっています。年金制度の抜本改正が先送りされるなど課題は残されていますが、ともかく、年金制度は、今後数年をかけて変わっていくことになります。今回成立した改正法の主な内容を見ていきましょう。
①老齢年金は納付10年から受給可能に【平成27年10月施行】
日本の年金制度で老齢年金を受給するためには、現在、原則25年の受給資格期間(年金受給に必要な保険料を納めた期間や加入者であった期間等の合計期間)が必要です。そのため、長年保険料を支払ってきたにもかかわらず、この期間を満たせずに、まったく年金を受給できない人もいるのです。
今回の改正では、無年金者の発生を抑えるため、受給資格期間が短縮されます。具体的には、「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」「退職共済年金」「寡婦年金」「これらに準じる旧法老齢年金」の受給資格期間が10年に短縮されます。なお、現在、年金受給世代にありながら無年金の高齢者も、改正後の受給資格期間を満たす場合、経過措置として、施行日以降に保険料納付済期間等に応じた年金が支給されます。
②パートタイマーの社会保険の加入拡大 501人以上企業【平成28年10月施行〕
パートタイマーなどの短時間労働者は、これまで、所定労働時間が一般社員の概ね4分の3(およそ週30時間)以上であれば、厚生年金・健康保険に加入しました。しかしこのような基準は、同じ労働者でありながら、短時間労働者は保護の手厚い保険制度の恩恵を受けられないこと、夫が社会保険に加入する妻の就業意欲を阻害していることなどが批判されていました。そこで、下記の基準をすべて満たす場合、厚生年金・健康保険に加入することになりました。
ただし、中小企業への影響に配慮し、当分の間、適用されるのは、現行の加入基準で被保険者の数が501人以上の企業です。なお、適用範囲について、3年以内に再検討されることが法律に明記されています。
く改正後の加入基準>
①週の所定労働時間が20時間以上
②同じ事業所に継続1年以上の使用が見込まれること
③報酬(残業手当、通勤手当等を除く)の月額が8.8万円以上
④学生等でないこと
③産休中も保険料を免除【2年を超えない範囲で施行】
出産や子育てを支援するため、産前産後休業(産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)、産後8週間)のうち、被保険者が労務に従事しなかった期間について、申し出により、被保険者および事業主の保険料が免除されることになりました。なお、現在、育児休業終了後に報酬が低下した場合、標準報酬を改定する特例がありますが、産前産後休業終了後に育児休業を取得しない人についても、産前産後休業終了後に報酬が低下した場合、職場復帰後の3カ月間の報酬月額を基に、標準報酬月額が改定されることになりました。
④父子家庭にも遺族基礎年金【平成26年4月施行】
遺族基礎年金は、男性が家計を支えるものという古い役割意識から、これまで、「子のある妻」か「子」にのみ支給されていましたが、改正により「子のある夫」についても、支給されることになりました。
⑤70歳後の繰り下げ支給見直し【2年を超えない範囲で施行】
老齢年金を一定年齢(上限70歳)まで繰り下げて請求すると、その時点に応じて年金額が増額されます。ただし、70歳に達した後に繰り下げ支給の申出を行ったときは、年金額は70歳の時点で申出を行った場合より増えないにもかかわらず、申出のあった月の翌月以降の年金しか支払われません。改正により、繰り下げの申出を行うまでの期間も給付がおこなわれることになりました。
⑥国民年金任意加入で未納期間をカラ期間に【2年を超えない範囲で施行】
基礎年金制度導入前のサラリーマンの妻などは、国民年金の強制加入ではなかったため、本人が任意加入の手続きをすれば保険料を納付することができました。任意加入しなかったとしても、この期間は合算対象期間(年金の受給資格には反映しても受給額には反映されない期間。「カラ期間」ともいいます)として一定の配慮がされます。
しかし、これらの人が任意加入した場合、その保険料を納付しなかったときは、これまで単に保険料の未納期間とされ、年金の受給資格や受給額に何ら反映されませんでした。今回の改正では、次の任意加入未納期間について、任意加入を行わなかつた期間と同様に、その期間を合算対象期間として取り扱われることになりました。
く対象となる任意加入未納期間>
・基礎年金制度導入前のサラリーマンの妻で任意加入し保険料未納期間
・20歳以上の学生で任意加入し保険料未納期間
・基礎年金制度導入後の海外在住者で任意加入し保険料未納期間
⑦未支給年金の請求範囲を拡大【2年を超えない範囲で施行】
年金受給者が死亡した場合、死亡月分の年金は支給が停止され、その受給者と生計を同じくする一定範囲の親族に限り、後から「未支給年金」として受け取ることができます。今回、未支給年金の請求範囲が、「2親等以内の親族」)から、生計を同じくする「3親等以内の親族(甥、姪、子の配偶者など)」にまで拡大されました。
⑧保険料免除の遡り期間を見直し【2年を超えない範囲で施行】
遡って国民年金の保険料免除を受けることができる期間について、現行では直近の7月までとなっているところ、保険料が納付可能な過去2年分まで遡って免除を受けることができるようになります。なお、「学生納付特例制度」「若年者納付猶予制度」も同様に過去2年分まで遡って免除を受けることができるようになります。
⑨付加保険料の納付期間を拡大【2年を超えない範囲で施行】
付加保険料とは本人が希望する場合に保険料を負担し、国民年金の上乗せの年金として受給することができる制度です。任意加入であることから通常の国民年金保険料とは違って、納期限までに保険料を納付しなかった場合、辞退したものとみなされ、その後は納付することができません。しかし、実際の納付は国民年金保険料と付加保険料を合わせて納付することから、国民年金保険料と同様に、過去2年分まで納付できるようになります。
⑩所在不明者の届出を義務化【2年を超えない範囲で施行】
年金受給者が所在不明にもかかわらず、年金が支給され続けていることが問題となっています。年金受給権者が所在不明の場合、現在は家族から所在不明の相談があった場合に、日本年金機構が受給権者の生存確認を行ったうえで年金を一時差し止めています。改正後は、同居の親族などに所在不届出を義務化し、この届出があった場合に、受給権者本人に対し生存をできる書類の提出を求めた上、その提出がない場合に年金を一時差し止められることになりました。
今回解説したほか、平成26年度から基礎年金の国庫負担割合1/2が恒久化されること、障害年金受給者の障害の程度が増進した場合の取り扱いなどが改正されています。年金制度は、さらなる改正が予想されます。将来の保険料負担の増加への備えや、手続きのもれなどがないようにしなければなりません。
◆法改正のスケジュール
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・今年8/22から2年以内
③産前産後休業中の保険料免除 ⑤繰り下げ支給の取り扱いの見直し
⑤国民年金任意加入者の未納期間の合算対象期間への算入
⑦未支給年金の請求範囲の拡大
③国民年金保険料免除に係る遡及期間の見直し
⑨付加保険料の納付期間の延長 ⑩所在不明高齢者に係る届出義務化
・26年4月 ④遺族基礎年金の父子家庭への支給
・27年10月 ①老齢年金の受給資格期間の短縮
・28年10月 ②パートタイマーへ厚生年金・健康保険の適用拡大(501人以上)
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