父親たちはなぜ長期の育児休暇を取らないのか

企業は父親の育児休暇を受け入れている。だが、父親の方はそれほどでもない。

 

米ヤフーは4月、新たに子供をもうけた父親であれば8週間の全額支給の有給休暇が取れると発表した。バンク・オブ・アメリカでは12週間の育児休暇を取得することができ、アーンスト・アンド・ヤングは数年前、2週間だったそれを6週間に延長した。全米人材マネジメント協会が父の日に公表を予定している調査結果によると、米国企業の15%が新米の父親になんらかの有給休暇を提供している。

 

前進しているようにも思える。しかし、職場での地位を失うという不安から家庭での父親の役割についての根強い固定観念まで、さまざまな理由で、父親たちは休暇を取ることを渋っているというのが現状である。

 

女性にとっては当たり前の育児休暇だが、従来の主婦と一家の稼ぎ手という夫婦の役割分担が変わってきたことで、男性もようやくこの議論に加わるようになった。スウェーデンやポルトガルのように、世界には父親の育児休暇が義務的になっている国もあるが、米国のそれは、仮に取得されたとしても、頑固なまでに短いままである。

 

ボストン・カレッジの「仕事と家族センター」がフォーチュン500に選ばれた4社の従業員を対象に行った2011年の調査によると、新米の父親の約85%が育児休暇を取るが、その大半は1-2週間だけだという。

 

専門家や父親たちに言わせると、それは「休暇が欲しくない」という理由からではない。フェイスブックの最高執行責任者(COO)、シェリル・サンドバーグ氏による働く女性のための宣言書『Lean In』が、女性が家庭生活を犠牲にすることなく出世する可能性にスポットライトを当てているが、仕事と家庭の間で激しい葛藤を感じているという点では父親たちも同じである。家族・労働研究所によると、2008年に仕事と家族への責任との間で葛藤を感じていると報告した共働き世帯の父親は60%だった。ちなみに1977年の数字は35%だった。

 

オレゴン大学の社会学者、スコット・コルトレーン氏は「親業と仕事を対等の立場に置く男性には依然としてある種の烙印(らくいん)が押されてしまう」と指摘し、「男性にとっては仕事が最優先であり、すべての育児は女性がするものという考えがまだ、大半の雇用主に残っている」と話した。

 

中には父親たちのネットワークが広がっている企業もあるが、親業をしていることが知られている男性の多くは職場でプレッシャーをかけられたり、同僚に反感を持たれたりしている。トロント大学のロットマン経営大学院が近々発表する論文によると、積極的に子供の世話をしている男性は、従来型の父親や子供がいない男性よりもからかわれたり、侮辱されたりするということがわかったという。

 

その論文の主執筆者であるジェニファー・バーダル氏は、積極的に子供の世話をする父親について、集中力を欠いているとか、仕事への献身度が低いとみられがちだとし、同じ認識が多くの働く母親の出世を妨げてきたと指摘する。また、そうした男性は意気地なしだとか、妻の尻に敷かれているといった中傷を浴びたりもする。

米コロラド州ボルダーに拠点を置き、従業員エンゲージメントのソフトウエアを製造するラウンドペッグの共同創業者であるブレント・デーリー氏は2010年に息子が生まれた後と2012年に娘が生まれた後に、それぞれ1週間と3日間の育児休暇を取った。

 

同氏の会社には新米の父親に1カ月間の有給休暇を与えるという非公式な方針があるにもかかわらず、37歳のデーリー氏は「出社して自分の役割を果たさないと、チームを失望させることになると感じた」と言い、「最後は、1つの仕事をまあまあうまくやるか、2つの仕事をひどくお粗末にやるかの選択になった」と話した。

 

アーンスト・アンド・ヤングでは毎年500人から600人の男性が育児休暇を取っている。同社の柔軟戦略のリーダー、マリエラ・ゴッケル氏によると、会社は最大で6週間の有給休暇を提供しているにもかかわらず、そうした父親たちの90%は2週間しか取らないという。

 

男性が最後の4週間を申請するためには、自分が赤ん坊の主たる世話役だということを確約しなければならない。父親たちが一般的にそれをしないのは、妻やパートナーが自分たちの育児休暇を使い果たした頃には、託児所などの手配がすでに整っているからだとゴッケル氏は言う。

 

長めの育児休暇には長期的な恩恵があるということを示す研究も増えている。コロンビア大学の研究者たちによる2007年の研究では、長期の育児休暇を取った父親は、仕事に復帰してから数カ月を経ても子供の世話に熱心に取り組むということがわかった。コーネル大学の大学院生、アンキタ・パトナイクさんがケベック州の育児休暇政策改革を調べ、今年に入って発表した論文によると、より気前がよく、男女で公平な育児休暇政策は、母親が産休後に仕事に復帰する可能性を高めるという。

 

育児休暇を取った男性の多くは、在宅での仕事を余儀なくされている。新米の父親がすぐに応じてくれると思い込んでいる同僚や上司はメールや電話で連絡を取り続ける――そして、父親たち自身も重要なプロジェクトに参加し損なうことを恐れているのだ。

 

ニューヨークにある金融サービス会社で副社長をしているギルバート・マドック氏は昨年5月に息子が生まれた後、1週間の有給育児休暇を取った。赤ん坊のことをよく知ろうとしている最中でさえ、同氏は1日の40%を仕事関係のことに費やしていた。「営業色が強い仕事なので、私がそこにいないとペースがかなり落ちてしまう」。私生活に仕事が入り込んでくることにも嫌悪感を覚えなかったと話す同氏は、自ら連絡が取れるようにしていたことを認めた。「そういう仕事なのだから仕方がない」

 

ウォール・ストリート・ジャーナルのフェイスブックページでフォロワーに育児休暇に関する考えを聞いてみたところ、世代間で見解の相違があることがわかった。若い父親はそれを不可欠なものだと捉えている一方で、より年配の父親は職場で烙印を押されることになると返答した。

 

調査会社コーン・フェリーのリーダーシップとタレント・コンサルティング・グループの責任者、R・J・ヘックマン氏は、上層部にいる人たち自身が育児休暇を取らないと、事態は変わらない可能性が高いと話す。最近の調査では、男性幹部社員の4分の3が育児休暇を社員をつなぎ留める上での重要なツールと考えているが、そうした休暇を実際に取ったことがある幹部は15%にすぎないということがわかった。

 

家族・労働研究所の雇用調査部門のシニアディレクター、ケン・マトス氏は、乳児との絆を深める時間を奪うことなく、両親が仕事とつながっていられる方法を見つけ出すことも育児休暇の普及につながると述べた。

 

同氏は「解決しなければならない問題の1つに、どうすれば親たちは休暇中に職場とのつながりを失わずに済むか、というのがある」と話し、週に1度、上司と電話で話す、事前に職場との連絡の頻度を決めておく、などという方法もあり得るだろう、と述べた。

 

たとえ長期間の育児休暇を取らなくても、生まれたての赤ん坊と価値のある時間を過ごすことができると父親たちは言う。デーリー氏にとってそれは夜泣きする赤ん坊をゆっくりと揺らして再び寝付かせるときだった。

 

「絆を深める時間なら午前3時にたっぷりとあった」とデーリー氏は話した。

ウォールストリートジャーナル


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